「オリヴァー・ストーン監督との仕事は独特だね」と、メキシコ人撮影監督ロドリゴ・プリエトは言う。「彼はすごく特殊なエネルギーをセットに放つんだ。彼の想像力のおかげで、こちらはたえず創作力を要求される。何しろ何が起こるかわからないからね」。ドキュメンタリー映画 『Comandante』 と 『Persona Non Grata』 で組んだ経験のあるこの2人は、古代史の冷酷な征服者の生涯を描く長編映画 『アレキサンダー』 (Alexander the Great)を完成させた。
プリエトはこう語っている。「アレキサンダーの物語は単純なものではない。彼の旅はとても長くて、私はその旅と彼の数多くの発見について伝えなくてはならなかった。映像は2つのレベル、つまり史実と彼の伝説的な人柄の両方を読みとれるものでなくてはならない。観客は熱と汗とほこりを感じ、映画を通して場所と時間を経験するべきなんだ。単なる伝説上のアレキサンダーだけでなく、彼の考え方も共有する必要がある」
プリエトは絵画と写真でイメージを研究し、人工の光と自然光を組み合わせることで独特の雰囲気を再現した。「撮影前の準備段階で、いろんなフィルターと特殊現像テクニックのテストをしたんだ。そうすればオリヴァーがシーンごとに選択して、衣装とセットデザインを決められるからね。私としてはつねに彼のオリジナルの考えを伝えようとした。たとえば彼は、マケドニアでのアレキサンダーの子供時代は原色を使った“無垢な”ルックにしたいと考えた。ジャン=リュック・コダールの 『軽蔑』 (Le Mépris)みたいにね。フィルターなしで撮らなくてはいけないってことだったけど、イーストマン EXR 50D 5245の非常に細かい粒状性のおかげで、きれいで透明な感じが出せた。インドのシーンはその正反対だった。コダック VISION 500T 5279を使ってブリーチバイパスのネガ現像をすることで粒子を目立たせ、映像のコントラストを強めた。ガウガメラの戦いについてはオリヴァーがずっと黄色い砂ぼこりのことを話していたんだ。そのシーンをモロッコで白色光の下で撮影したときには、砂ぼこりと太陽両方の感じを伝えるために、タバコ色のフィルターを使った。暖色の映像なのに何となく攻撃的で、見ていて不安になる感じなんだ」
シュールレアリズム
映画の最後、アレキサンダーの死の直前に行われた戦いの重要な場面で、プリエトはストーンに、史実的な表現からシュールレアリズムに転換することを提案した。「この場面の現実感には別の方法でアプローチできると感じたので、赤外カラーで撮影した。結果は奇妙な幻覚みたいになった。植物がピンクやマゼンタに、血が黄色になり、突然映像ががらりと変わって現実と完全なファンタジーが一体になる」
これだけ多彩なルックが必要だったので、プリエトは幅広い選択が可能なコダックフィルムを選んだ。「イーストマン EXR 50D 5245、コダック VISION 250D 5246、コダック VISION 500T 5279、コダック VISION2 5218、コダック VISION 200T 5274など、コダックのラインナップを全部使ったような気がするよ。旅をしていて時間が経過している感じを強調するためにシーンごとに差をつけようとしていたんだけど、コダックの多彩なネガフィルムのおかげで、質感や粒子やコントラストを変えることができた」
アリST、持ち運びに便利なアリLT、アリ425、そしてスーパー ハイスピード フォトソニックを用意したプリエトは、撮影の大半でクックのレンズ、ホークの420ズーム、そしてリボリューション レンズ システムを使ったが、戦いのシーンには8台のキャメラが必要だった。日中の屋外とロケ地の屋内撮影にはHMIを優先的に、ステージでの撮影には主にタングステンを用いたが、同時に、補助光としてたくさんのスペース・ライトを間接照明として使用した。そして非常に強い日光の代用にモール・ビームを加えた。「プトレマイオスがバルコニーからアレキサンドリアの町を見渡すシーンには、巨大な100kWのソフトサンを使った。バルコニーをブルースクリーンから切り抜かなくてはならなかったので、サウンドステージでこの昼間のシーンの照明にするには、それしか方法がなかった」と語るプリエトは、撮影中は悪夢に悩まされたと認めている。「でも 『アレキサンダー』 は最高の夢でもあった」と付け加えている。
94日間の撮影で、モロッコのアトラス山脈とエッサウイラ、タイのバンコク、それにラオス国境近くのウボンラチャタニなどでロケ撮影を行い、バビロンの庭園、アレキサンドリアの図書館、ダリウスの王宮などの屋内と背景は、ロンドンにあるパインウッドとシェパートンのスタジオに再現された。
『アレキサンダー』 の製作中、プリエトはコダックのルック マネージャー システムのユーザーになった。「撮影前にはこのシステムは手に入らなかったんだが、ポストプロダクションの最中に使えるようになって、合成を担当した特殊効果チームが基準にした。レシピ(処理方法)を参照することができるし、同じ映像を基準として使えるし別の箇所へ適用できるし、それでモニターキャリブレーションもできるなんて、実に大きな前進だよ。最近は映画製作で以前にもまして幅広くデジタルとビデオの技術が使われるようになっているから、とくに重要なステップになってきているね。私はたえず同じ疑問を持っていたんだ。意図している映像の色や濃さをラボやテレシネにどう伝えるのかと。その答えはどうしても主観的なものになる。テレシネのカラリストによって映像が大きく変わる場合があるからね。オプチカルでのフィルムのラッシュなら、それほど変わる要素はない。これはいまだに製作中の大きなメリットだよ。ネガが何をとらえているかを見るための、具体的な基準としてプリントのライトがあるから。テレシネのラッシュのとてつもなく幅広い選択肢がコダック ルック・マネージャー システムを使うことで限定されるから、チーム全体がシネマトグラファーのビジョンにぴったり寄ることができる」 |