粒状性と粒状度 15
粒状性と粒状度という言葉はしばしば混同され、時には写真感光乳剤内の銀や色素の配列が語られる際に、同義語としてさえ使われることがあります。この二つの言葉は、2 種類のはっきり区別された像構造の評価の仕方を指しています。写真像を適切な拡大倍率で見る時、見ている人は視覚を通して粒状性、つまり像が非均一であるという主観的印象を持ちます。この像構造が持つ非均一性は、マイクロデンシトメーターを使って客観的に測定することもできます。この客観的評価方法でフィルムの粒状度を測定します。
映画用フィルムは、フィルムの支持体(フィルムベース)の上に薄く塗られたゼラチン(乳剤)層内に分散されたハロゲン化銀結晶で成り立っています。これらの結晶が露光、現像されると、ある段階では分離した銀の粒子でできた写真像を形成します。現像後に銀が取り除かれるカラー現像処理では、色素が、現像された銀結晶の周りに色素雲を形成します。結晶は大きさ、形、感度がそれぞれ異なり、普通、乳剤内に不規則に配合されています。均一に露光された部分では、露光によって現像可能になる結晶もありますが、ならないものもあります。
これらの結晶の位置も不規則です。普通、現像によって粒子の位置が変わることはなく、均一に露光された部分の像は、透明なゼラチンで分離された不透明銀粒子(白黒フィルム)、または色素雲(カラーフィルム)の不規則な配合の結果です (図 21 と 22)。
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| 図 21 |
図 22 |
| 乳剤が作られる際、ハロゲン化銀の粒子は不規則に配合されます。この生の乳剤の顕微鏡写真はハロゲン化銀結晶を示しています。 |
現像された銀、または露光されたハロゲン化銀のあった場所に形成された色素雲です。一般的に言われていることと逆に、粒子の物理的結合や移動はごくわずかです。この顕微鏡写真の銀粒子の配列と、図21 の未現像のハロゲン化銀を比較してください。 |
粒状パターンは見ることはできますが、個々の銀粒子は約0.002mm から0.0002mm 程度の大きさですので、肉眼で見えるわけではありません。
一つ一つの粒子を見分けることができない程度の拡大倍率では、肉眼はこれらの粒子を、濃い部分と薄い部分の不規則な集合体として判断します。拡大倍率が低くなるに従い、観察者は大きな点の集合体を、新たな粒状性の単位として見るようになります。これらの複合された集合体の大きさは、拡大倍率が低くなるに従って大きくなりますが、アンプリチュード(暗い部分から明るい部分の濃度の違い)は低下します。更に低い拡大倍率では、粒子の構成が見えなくなるために粒状性は完全に消えてしまいます。(図 23)
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| 図 23 |
| (a )2.5 倍の拡大では、ネガは粒状性を示しません。(b )20 倍の時、粒状性が幾らか現われます。(c )60 倍でネガの一部分を調べると、銀粒子の一つ一つの見分けがつくようになっています。 (d )400 倍の拡大では、分離した粒子が容易に見えるようになります。表面の粒子には焦点が合っていますが、乳剤中の深いところにある粒子には焦点が合っていない点に注意してください。銀粒子が「かたまり」として見えるのは、実際には二次元投影で観察する際に、異なった深さにある粒子が重なり合って見えるからです。(e )一つ一つの粒子の構成は異なります。この電子顕微鏡で拡大された糸状の銀は、低い拡大倍率では一つの不透明な粒子として見えます。 |
この現象には、不規則性が不可欠の条件です。もしその粒子に、グラフィック・アートに使われるハーフトーンの網の様な規則性を持たせた場合、粒状性の感覚を作りだすことはできません。ハーフトーンを、ドットの見分けがつくような拡大倍率で観察すると、内眼では、パターンを認識しますが、ドットを集めて新たなパターンとして認識することはありません。ドットのパターンを見ることができたとしても、そのパターンが不規則ではなく、一定であるために肉眼には粒状性を感じさせません(図 24)。ドットがもはや目では見えない程の低い拡大倍率では、パターンの認識はなくなり、像部分は均等に見えます。
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| 図 24 |
| ある場面を再現するために、均一なドットパターンを持つ一般的なハーフトーンを使うとしたら、人間の目は像を滑らかな連続したトーンとして解釈します(a )。これは、ドットが均一な間隔を置いているために起こります。場面の再現のため、ハーフトーンのドットを不規則に配分すると(b )、像は「粗く」見えます。このため、像の視覚的粒状性は、像を構成する各要素の不規則な配分によるといえるでしょう。 |
個々のドットが見える程度の拡大倍率で、小さなドットの不規則なパターンを見る場合、配列性や、判断可能なパターンを感じることはありません。ドットが見えない程度にまで拡大倍率を下げると、ドットは互いに混ざり合い、表面が不均等に見え、粒状性を感じる像を形成します。
RMS 粒状度の測定
人間の目に粒状性を感じさせる写真像の特質は、マイクロデンシトメーターを使うことにより測定(シミュレート)することもできます。これらの測定値は、粒状性の視覚的印象を数値として表わすため統計学的に分析されます。客観的測定の二つの大きな利点は、迅速で正確な測定のために計器類が用意しやすいことと、数学的手法を使って測定が容易にできるということです。
普通の濃度計は、銀粒子の大きさに比べると、はるかに大きな範囲の濃度を測定します。普通の濃度計のアパーチャー内にはたくさんの粒子があるために、測定された粒子の数が少し変動しても、測定値には影響しません。
高い拡大倍率が視覚的な粒状性を増加させるように、アパーチャーを小さくする(倍率を高くする)と、高い粒状値がでます。濃度計のアパーチャーがかなり縮小された場合、粒子がさらに少なくなり、粒子の数のわずかな違いが濃度の変動として記録されます。これらの変動の規模を分析すると、サンプルの(客観的)粒状度の統計的測定値がでます。
実際には、視覚的に均等な濃度の部分は普通、直径48 ナノメーターの小さなアパーチャーによって連続的に走査されます( 図 25)。透過した光は感光素子に記録され、それから発生した電流は、不規則な濃度変動の標準偏差値を読み取るためのメーターに入力されます( 図 26)。
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| 図 25 |
| アパーチャーサイズを大きくすると、莫大な数の銀粒子を見ることができます。そのため、小さな部分の変動は、アパーチャーが記録する濃度にはほとんど影響しません。小さなアパーチャー(大きなアパーチャーの直径の約20 分の1 の大きさ)が、広く「均等な」範囲を走査することにより、粒子配分の
不規則な違いを検知します。 |
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| 図 26 |
| 粒子の乳剤の連続的濃度スキャンからの信号は、オシロスコープで見た場合、不規則な電気的ノイズと同じに見えます。RMS 電圧計は「ノイズレベル」を直接読み取ることができます。 |
標準偏差値は、平均値の集合(この場合濃度変化)の配分を表わしています。濃度変化の二乗(Squares )の平均(Mean )の平方根(Root )が算出されます。RMS 粒状度という言葉はここから来ています。比較を容易にするために、この小数に1,000 をかけて、一般的には5 から50 までの整数にします。
コダックで使われているRMS 粒状度測定器は、アメリカンナショナルスタンダード(PH2.19 1976 )の視覚拡散濃度を測定するようにできています。コダックの白黒フィルムとカラーネガティブフィルムの粒状度の値は、視覚濃度1.00 で測定されています。コダックおよびイーストマン映画用フィルムは、直径48 マイクロメーター(0.048mm )の円形のアパーチャーで測定されています。このアパーチャーは多くのフィルムサンプルに有効な大きさとなっています。
粒状性に影響する要素
現像液や現像量の違いは、白黒フィルムの粒状性に影響します。様々な部分の濃度を決定する露光量もまた、全てのフィルムの粒状性に影響します。カラーフィルムの場合、現像処理工程は厳密に決定されていますので、増感現像が粒状性を増加させることはあるものの、現像が粒状性に影響することはまれです。また、カラーフィルムの多くは、異なった粒状性を持った乳剤層でできているので、露光量を(あるレベルまで)増加すると、より細かい粒子を持った層により多くの濃度を持たせるため、実際に見える像全体の粒状性は良くなります。
粒状度とカラー感光材料
シアン、マゼンタ、イエローの各色素雲でできている写真像は、カラーコントラストがあるために、それに相当する銀粒子像に比べると、粒状が粗いと思われるかもしれません。しかし実際は、その解像力の限界に近くなると、目は輝度の違いのみを見るので、非常に細かいディテールの色を見分けることはできません。
カラーフィルムが映写されるとき、白黒フィルムの銀粒子のかたまりに似た、色素雲のかたまりの集合体ができます。高倍率の拡大では、これらのかたまりは、映写されたスクリーン像にその粒状性が現われる原因になります。
粒状性と粒状度の実際の効果
撮影用フィルムのフォーマットが小さくなるにつれ、画像をより大きな拡大率で投影する必要が出てきました。と同時に、見る人は、ますますフィルムの粒状構造に関心を持つようになりました。
フォトグラファーは微粒子フィルムを望みますが、フィルム感度を犠牲にはしたがりません。感度の高いフィルムは普通、より大きな粒子を持っています。ハロゲン化銀結晶が大きければ大きいほど、光に当たって現像可能になる確率が高くなるからです。一般に大きなハロゲン化銀の結晶は、現像するとより大きな金属銀になります。このようにフィルムの選択というのは、できる限りの感度と、許容範囲内の粒子の大きさとの間に妥協点を見つけることなのです。
写真科学者達は常により好ましい感度と粒子のバランスを探し求めています。しかし、乳剤感度の粒子構造に対する関係は、フォトグラファーにとっても重要な問題です。なぜなら、感度と粒子の関係は、乳剤が光を検知するかどうかを示しているうえに、仮に検知された場合、認識できるような像を形成するかどうかを示しているからです。
例えば生物学者がアメーバの生態を撮影しようとしているのならば、アメーバが生息できる温度域によって照明の量は限定されます。限られた照明を補うために高感度のフィルムを使うのであれば、必要なディテールをフィルムが記録するために粒状度は十分に低くなければなりません。スクリーン上の映像が果たしてアメーバの消化過程なのか、ただの粒子のかたまりが「動き回って」いるだけなのか、見る人が考え込むようでは意味がありません。
粒状性は、プリントの中間トーンに最も顕著に現われます(大体0.6 から0.9 の濃度)。プリントの明るいトーンの部分は、傾斜が全体よりも更に低い、特性曲線の足部に当たります。そのため、粒状性を再現するコントラストが低く、見分けにくくなります。暗いトーンでは、目で粒状性を見分けることは困難です。人間の目は、平均的なハイライト濃度のわずか0.02 程度の濃度の違いも容易に見分けられますが、平均的シャドウ濃度の場合は0.20 付近までの濃度の違いしかわかりません。曲線の傾斜が一定している中間トーンでは、プリント用感光材料のコントラストは最大であり、人間の目は簡単にわずかな濃度の違いを見分けることができます。そのため、粒状度は、肉眼で最も容易に粒状性として検知されます。
粒状性を認識する際のもう一つの要素は、一つの場面の中にあるディテールの大きさです。粒状性は、均等な濃度を持った部分ではっきりとわかり、細かいディテールや動きの多い部分ではそれほどわかりません。
映写時の拡大倍率も、スクリーンと見る人の距離もその時々によって違うので、投影されたプリント像を見る場合の拡大倍率を、あらかじめ予測するのは困難です。どちらの要素も、像の拡大倍率に影響するので、粒状性にも影響するわけです。
映画用フィルムを、非常に大きく拡大して見た場合(映画館の最前列で見るように)、像の均等な部分で粒子が「沸き立って」いたり、「動き回って」いたりするのに気がつくでしょう。この感覚は、粒子の位置がフレーム毎に違うことから起こるもので、普通の写真に比べ映画の方が粒状性が目につきやすいのです。反対に、動く像は見る人の注意をこの感覚からそらしますので、粒状性は、普通静止したシーンでのみ目につくことになります。
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