flag   日本 [change]

In Camera
 Focus on Film
 
ジョン・ベイリー(ASC)
(左から)ジュリアンヌ・ニコルソンとマイケル・セルベリス。『ぶざまな男達とのインタビュー』の1シーンより。 写真 ジョジョ・ウェルデン

1人の撮影監督の作品が、2本同時にサンダンス映画祭の審査員大賞にノミネートされるということは滅多にない。ジョン・ベイリー(ASC)は2009年に『ぶざまな男達とのインタビュー(原題:Brief Interviews With Hideous Men)』と『ザ・グレイテスト(原題:The Greatest)』で、それを実現した。前者では、これが初監督作品となるジョン・クラシンスキーと、後者ではシェーナ・フェステと組んでいる。

クラシンスキーは人気上昇中の俳優でもある。TVシリーズ『The Office』のジム・ハルパート役では他のキャストと共に、07年と08年に全米映画俳優協会賞(Screen Actors Guild Awards)のコメディー部門アンサンブル演技賞で、最優秀賞を獲得し、09年にも3回目のノミネートを果たした。一方、フェステは新進気鋭の監督で、『ザ・グレイテスト』が初の長編作品だ。

ベイリーは、これまでに60本を超す作品を手がけており、代表作には『普通の人々』(1980年、ロバート・レッドフォード監督)、『再会の時』(1983年、ローレンス・カスダン監督)、『ザ・シークレット・サービス』(1993年、ウォルフガング・ペーターゼン監督)、『アメリカン・ジゴロ』(1980年、ポール・シュレイダー監督)、『悪の華/パッショネイト』(1983年、スチュアート・ローゼンバーグ監督)、『シルバラード』(1985年、ローレンス・カスダン監督)、『想い出のブライトン・ビーチ』(1986年、ジーン・サックス監督)、『偶然の旅行者』(1988年、ローレンス・カスダン監督)などがある。

「『ぶざまな男達とのインタビュー』と『ザ・グレイテスト』に心ひかれたのは、どちらの作品も人物像が興味深く、その人間関係を描いたストーリーがリアルだったからだ」と彼は語る。

『ぶざまな男達とのインタビュー』の3分の2は、3.5×5.5メートルの部屋を再現したセットで撮影された。女性の大学院生が、研究テーマの調査のために、数人の男性に女性との経験を話すよう依頼する。作品は主にインタビューシーンで構成され、そこに場面転換やフラッシュバックのシーンが差し込まれる。

『ザ・グレイテスト』はファミリードラマで、息子の突然の死に耐える両親を中心に描かれている。亡くした息子のガールフレンドは10代で妊娠した問題児で、生き残ったもう1人の息子の人生も急激に転落していく。家族が暮らす家をはじめ、ロケ地が、まるでシーンの前景や背景にいる登場人物のように描かれている。

ベイリーがどちらの作品も35mmのアナモフィックで撮影し、従来通りのフィルムによるアンサープリントにしようと提案したのは、作品の芸術性を保つことができ、予算的にも現実的だったからだ。彼の試算では『ザ・グレイテスト』の予算は300~400万ドルで、『ぶざまな男達とのインタビュー』はその半分程度だったという。

ベイリーがクラシンスキー出会ったのは、まったくの幸運だった。クラシンスキーが出演した『ライセンス・トゥ・ウェディング』(2007年、ケン・クワピス監督)の撮影の準備中に、ベイリーは監督から、クラシンスキーが映画の監督をするそうだから、2人で話してみたらどうかと言われたのだ。

詳細な人物像

クラシンスキーはこの映画の監督と出演に加えて、デイヴィッド・フォスター・ウォレスの小説を原作とする脚本も書いている。

「ジョン(・クラシンスキー)の台本を読みながら、アナモフィックでこの作品を撮ることをイメージしたんだ」とベイリーは言う。「そのほうがメディアムからクローズアップのショットで、男性達を細かく描写する構図が自由にできて、深みがでると彼に話したよ。それにアナモフィックならインタビューシーンで男たちの顔を画面内の少しずつ違う場所に配して、顔の位置で画面に変化をつけることができる。そうすると背景は照明を使って描くことができる大きなキャンバスのようになり、人物の微妙な違いを表現できると思ったんだ」

一方、フェステは、自らベイリーに連絡を取った。80年代の核家族の危機に焦点を当て、人物の性格描写と会話が中心に進行する『普通の人々』の撮影に心酔していたからである。

「台本を読んだあと、私はシェーナやプロデューサーのリネット・ハウェルとアーロン・カウフマンに、ハンドヘルドのキャメラを多用し、デジタルビデオで映画をつくるのも良いかもしれないと話したんだ。ただ、デジタルインターメディエイト(DI)を行い、上映用のフィルムができる頃には、コストは35mmフィルムで撮影するのとほとんど同じになるだろう、とも言ったよ。生フィルムの予算にさえ気をつけていれば、35mmのアナモフィックで撮影して、従来通りのアンサープリントを製作することだって出来るとね。

さらにベイリーはフェステとプロデューサーに、2KのDIは映像の基本原理に欠かせないイメージの豊かさや、コントラストと色のニュアンスを損なうので、35mmアナモフィックで撮影する意味がなくなるとも助言した。

ジョン・ベイリー(ASC)
『ザ・グレイテスト』のセットにて監督・脚本のシェーナ・フェステと撮影監督のジョン・ベイリー(ASC)。
写真 ジョジョ・ウェルデン

「たいていの人は35mmのフレームにある情報をすべてスキャンすると、2Kまたは4Kのデータファイルになると思っているが、それは現在一般的に行われているというだけ。私の経験では、アナモフィックで適切に露光された中庸感度の35mmカラーネガが持つ情報量を数字に変換するとしたら、8Kか、10Kに近いかもしれないと思う」

『ぶざまな男達とのインタビュー』は主に、ニューヨーク州ブルックリンにある倉庫を改修した小さなスタジオで撮影された。屋外シーンの一部はスタテンアイランドにあるボーイスカウトのキャンプで撮影された。さらに、昼間の屋外シーンや教室のシーンはコロンビア大学とブルックリン大学のキャンパスでロケが行われた。

『ザ・グレイテスト』は主に、マンハッタンの北に位置しており、通勤圏内でもあるロックランド郡で撮影された。脚本に魅せられて、夫婦役のスーザン・サランドンとピアース・ブロスナンなど、そうそうたるキャストが集まった。物語の大部分は、多くの映画やCMのロケで使われており、可動式の壁と電源を備えた一軒家で展開する。他のシーンはその近隣で撮影が行われた。

どちらの作品もキャメラとレンズはパナビジョンだった。ベイリーによると、シーンの9割は、T2.8の40~80mm、またはT3.5の70~200mmのズームレンズでカバーしたと言う。彼は何年も前に、この2本のレンズの開発をパナビジョンに依頼していたのだ。ベイリーは、昼間の屋外シーンの一部ではT4.5の270~840mmアナモフィックズームレンズを、そしてステディカム撮影にはパナビジョンCシリーズの40、50、75mmレンズも使った。

思いどおりにコントロール

どちらの作品でも、タングステン照明のシーンにはコダックVISION2 5218(500T)が、デーライトのシーンにはコダックVISION2 5205(250D) と5201(50D)が使用された。

「ジョン(・クラシンスキー)とはかなり時間をかけて、インタビューの内容と俳優が自分の告白をどう解釈しているかについて話したよ」とベイリーは語っている。「それぞれの登場人物が妻や恋人、両親や友人について語っているとき、どう照明を当てるかを考えることが、私にとっての出発点だったんだ。照明は、それぞれの人物の心のうちに入り込むための鍵のようなものさ」

インタビュールームのセットには4枚の可動壁があって、照明のためにスペースを広げたり、望遠レンズで遠くから撮影したい時には、それぞれ独立して動かしたりすることができた。彼はすべてのインタビューを基本的に、同じ高さと距離から、同じ焦点距離のレンズで捉えることにした。

セットの左側にあった2つの窓はほとんどフレームには入れず、3番目の窓がインタビューされている人のすぐ後ろにあった。ベイリーはその窓から照明を当て、時刻に応じて光に強弱をつけるようにした。

「映像のサイズ、アングル、焦点距離は一定だったので、照明で違いをだしたかったんだ。オフィス自体がニュートラルな色で、特徴も存在感もなかったので、光の色と質で思いどおりにコントロールできたね。日光が反射しているかのように、床に光を当てることもあったよ」

一方『ザ・グレイテスト』はより広い、様々な場所が舞台となって登場人物が交流する。幅の広いアスペクト比のおかげで、役者たちはセットの中を自由に動くことができ、しかもあまりパンをせずに済んだ、とベイリーは話している。焦点を合わせている部分に視線を引き寄せる狙いで、シーンの一部を少しぼかすこともあった。

「アナモフィックの画面のほうが有機的で自然に感じられるんだ。普段、自分の目で周りを見ているときのようにね。私は撮影前の準備に必要以上に時間をかけたり、分析を行ったりはしない。自分の直観を信じて、ハートで撮るのが1番なんだ」

どちらの作品もニューヨークのテクニカラーが現像とデイリーを担当した。『ザ・グレイテスト』も『ぶざまな男達とのインタビュー』も、アンサープリントのタイミングを担当したのはリー・ウィマーだった。

「ジョン(・ベイリー)はすばらしい撮影監督だね」とウィマーは語る。「これで一緒にやるのは5本目と6本目になる。僕たちは考え方がとてもよく似ているから、あまり話さなくても十分にコミュニケーションがとれた。彼のアイデアを聞いているとき、僕は『そうだ、そうだ』とうなずいているだけなんだ。『ザ・グレイテスト』は暗いシーンが雰囲気を決めている美しい映画だね。『ぶざまな男達とのインタビュー』はまったくルックが違っていて、あの小さなインタビュールームの中にいろんな色を使っている。この2本は全然違う作品だけれど、どちらの場合も、僕は音を聞く前の段階で、何が起きているかを理解できたよ。実際の予算は知らないけど、低予算の作品には見えないね」

 

Home | | プライバシー | 著作権