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La Misma Luna
『同じ月の下で:La Misma Luna』の1シーンより、俳優のデル・カルティロとアドリアン・アロンソ。 撮影:チェコ・ヴァレス撮影監督(AMC)。
Photos Courtesy of Fox Searchlight Pictures

パトリシア・リッゲンは2003年の『トウモロコシ畑(原題:La Milpa)』でアメリカ監督組合とアカデミー賞の学生映画コンぺティションで、それぞれ首位に輝いた。彼女のドキュメンタリー映画『家族の肖像(原題:Family Portrait)』は2005年のサンダンス映画祭で受賞している。『同じ月の下で(原題:La Misma Luna)』は彼女にとって初の長編フィクション作品で、夫のチェコ・ヴァレス(AMC)が3作品すべてで撮影監督を務めている。

キャメラマンとしてのヴァレスの人生は、1980年代半ば、放送向けに、主として戦地でテレビニュースやドキュメンタリーを撮影することから始まった。何百本というミュージックビデオやコマーシャルを撮影し、劇映画も20本あまり手がけてきた。2007年にはスクリーン・ジェムの長編『プロム・ナイト(原題:Prom Night)』とHBOのパイロット作品『トルゥー・ブラッド(原題:True Blood)』も撮影している。

『同じ月の下で:La Misma Luna』はロザリオの紹介から始まる。彼女は不法移民で、9歳の息子カリトスを養うために、ビバリーヒルズの豪邸で家政婦として働いていて、息子は祖母とメキシコで暮らしている。ロザリオとカリトスは何年も会っていないが、ロサンゼルスの街角とメキシコの町中の公衆電話を使って毎週連絡を取り合う。

祖母の死とともに『同じ月の下で:La Misma Luna』は現代のロードムービーに変わり、観客をカリトスとの旅にいざなう。コヨーテと呼ばれる怪しげな登場人物が、少年をメキシコからアメリカへと密入国させ、テキサス州に入り、ヒッチハイクをしたり、バスに乗ったり、道路沿いのカフェで皿洗いをしながら母親のロザリオを探す。

この作品のプロデュースはリッゲン、脚本はリギア・ヴィラロボス。プロジェクトは元のスポンサーが約束を反故にしたため一時暗礁に乗り上げたが、メキシコの「芸術のための国家基金」から助成金をもらえることになり、アメリカの投資家からも同額の資金が集まって、失望は喜びに変わった。魅力的な脚本と彼らの作品への情熱が、ロザリオ役にケイト・デル・カルティロ、カリトス役にアドリアン・アロンソ、コヨーテことエンリケ役にエウジェニオ・デルベスなど、有能なキャストを引き寄せた。

La Misma Luna
撮影の準備をするチェコ・ヴァレス撮影監督。
Photos Courtesy of Fox Searchlight Pictures

「この物語の理想像を傷つけずに、しかも手ごろな予算で実現できる制作方法を見つけ出すのに協力してほしい、とパトリシア(・リッゲン)から言われた」とヴァレスは言う。「そこで、『同じ月の下で:La Misma Luna』をスーパー16と35mm、HDで製作した場合のコストを比較した」

彼はスーパー16が最もコストパフォーマンスが高く、3パーフォの35mmとHDの予算は同じと判断した。ヴァレスは35mmとデジタル インターメディエイト(DI)を組み合わせれば、時間と場所の感覚とストーリーの感情的な流れを映像としてはっきりさせるために必要な、色調、色彩、コントラスト、被写界深度などのニュアンスを実現できると力説した。

アメリカにありそうな建物や高速道路などの背景を必要とする撮影は、メキシコ北部のロケ地で24日間の撮影を行う予定だった。例外は国境の検問所の屋外セット。そのほかに、設定をはっきりさせるためのシーンの撮影がロサンゼルスで4日間にわたって行われた。

「少年がロサンゼルスに通じる砂漠の中の道路を旅する大掛かりな屋外シーンは、メキシコのロケ地で撮影する計画だった」とヴァレスは言う。「背景に写りこんだ緑の木々など、あるはずのないものは取り除いて、さまざまな時間帯に異なる光の中で撮影した素材を使えることがわかっていたからね」

「私の仕事は台本を読んでいるときに始まる。まずは基本通りに撮影をどうするか考えていくけれど、後からやり方を変えることもある。この物語にはメキシコとアメリカという異なった世界が描かれている。観客は、どこでどんな暮らしをするか、どんな服を着るかなど、ライフスタイルの違いから2つの世界を感じとることができる」

La Misma Luna
俳優のアドリアン・アロンソとエウジェニオ・デルベス。
Photos Courtesy of Fox Searchlight Pictures

背景や周囲の状況が映像によるセリフのようだとヴァレスは力説する。たとえばカリトスが道端でチューインガムを売っている貧しいメキシコの町や、祖母の小さな家のあせた茶色い壁などの背景は、母親が働くビバリーヒルズの豪邸の豊かな色彩と鋭いコントラストを見せている。車での長旅や、ロザリオがカリトスと公衆電話で話すロサンゼルスの街角の状況が、言葉と同じくらい強く語りかけてくる。

美的感覚から、フォーマットはアスペクト比を1.85:1にし、さまざまな球面のウルトラプライムレンズとアンジェニュー オプティマ24-290mmズームを使った。ヴァレスはデニー・クレアモントが提供する1台のアリBL-4ですべてのショットをカバーした。彼の話によると、3パーフォのおかげで生フィルムと現像のコストを削減できたうえ、マガジン交換が必要になるまでに25パーセントも長く撮ることができたという。

絵コンテはなかった。リッゲンが俳優とリハーサルをした後、彼女とヴァレスがシーンを分析し、1カ所から別の場所へとドリーで追うのか、ハンドヘルドか、あるいはステディカムかを話し合う。ヴァレスは演技を別のアングルや視点から押さえるために、セカンドキャメラを用意したいと思うこともあったと言う。実際にそういった状況では別のアングルからもう1度撮影した。

「フィルムで撮影しているときは、ファインダーを通して正しい色彩と色合いで人生を見ているんだ」とヴァレスは言う。「それが何となく私の魂と脳に同時に語りかけてくる。私は無意識のうちに、望むルックを得るための露出を計算している。フィルムは人の心と同じように働くからだろう。コントラストや色彩に幅があって、ハイライトとシャドウを詳細にとらえる。人々の魂に触れ、永遠に残る物語をつくるには、フィルムで撮影するべきだと思う」

カリトスはビザを持っていないので、コヨーテが運転するミニバンの床下に隠れて国境を越える。コヨーテはその道のプロだ。その張りつめたシーンの撮影の準備段階では、リッゲンとヴァレスは1日に5回、1週間で14回も国境を越え、密入国が心の底でどんなふうに感じられるかを体得した。2人は国境警備員に怪しまれて呼び止められ、別室で尋問までされた。

La Misma Luna
『同じ月の下で:La Misma Luna』の1シーンより、俳優のアドリアン・アロンソ。
Photos Courtesy of Fox Searchlight Pictures
全体像

「そのシーンはハンドヘルドキャメラを使ってシネマ・ヴェリテ・スタイル(注1)で撮影することにした。張りつめた状況で少年が感じたことを観客にも感じてもらうためだ」とヴァレスは言う。「彼の孤独を感じてほしい。キャメラが見下ろす少年は弱々しく、傷つきやすく見える。カリトス役のアドリアン・アロンソはこの映画の撮影時には12歳くらいだったけれど、いつも1回のテイクで見事にやってのけていた。テイク2を撮るのは別のアングルから撮影するときだけだったね」

国境越えを撮影する日にはパナビジョンがテクノクレーンを用意した。ヴァレスとリッゲンはそれを使って、観客に場面の全体像を見せたのである。

「映像で語るには基本的なルールがあるけれど、物語を演出する場合にそれを曲げてもかまわない」とヴァレスは言う。「どの映画にも独自のルールがある。詩と小説と報道では構成が違うのと同じだ。ハンドヘルド撮影は詩的な瞬間に使える場合もあれば、ひどく激しい攻撃的なシーンを表現するのに使える場合もある。物語にプラスになることをする――これが破ってはならない唯一のルールだ」

ヴァレスの説明によると、『同じ月の下で:La Misma Luna』でのキャメラの動きは主に少年の演技で決まったという。彼の目線から見た世界を観客に見せるために、キャメラのアングルを下げることもあった。カリトスが危険だと観客に感じてほしいとリッゲンが思うところでは、キャメラは大人の目の高さから彼を見下ろす。

「キャメラアングルをほんのちょっと上げたり下げたりする微妙な動きで、少年が感じている幸せや悲しみや恐怖の感情を伝えることができる」とヴァレス。

彼は画家がパレットに出す絵の具を選ぶのと同じ意識で、2種類のコダックVISION2カラーネガを選んだ。屋外シーンの大部分にコダックVISION2 200T 5217を使っている。ハイライトを失うことなく暗闇やシャドウもとらえられる、このフィルムに固有の映像特性があるからだ。

「砂漠は非常に明るくて、砂の色が広がり、オゾン層の下の空は青い。私としては、屋内シーンと暗めの屋外シーンで使った(KODAK VISION2 500T)5218とつながりがよく、ハイライトをごく上品に描き出すフィルムを使いたかった。予算の関係でHMIは1台か2台しか使えない。だから照明が足りないときは5218に切り替えた。5218のほうがシャドウの深いところまでとらえられるからね。フィルムを切り替えたことに誰も気づかないよ。気づいたら気が散ってしまうだろうね」

映像の基本ルール

ネガはメキシコシティのニュー・アート・ラボで現像された。コダックの『イメージケア プログラム』の認定を受けたラボだ。オフライン編集後、ロサンゼルスのモダン・ビデオフィルムでネガのスキャンとデジタルファイルへの変換が行われ、ヴァレスは、インタラクティブな環境でDIによるタイミングを行った。

「フィルムをDIでタイミングしていると、すべてのショットを完璧なものにしたい衝動に駆られる。映像の一部分をウィンドウで囲って、もっと明るくしたり色を加えたりするようにタイマーに指示するのは簡単だ。DIはすばらしいツールだが、どの作品にも映像に独自の基本ルールがあることを忘れてはいけない。DIを使えばあらゆるショットの空を美しいピンク色にすることもできるけれど、DIの目的はショットを作り出すことではない。物語の情緒の流れに沿って流れるように描くことなんだ」

『同じ月の下で:La Misma Luna』を映画祭に出品する準備が整ったとき、ヴァレスはデジタル上映ではなく、少し予算がかかるもののコダック VISION プレミア カラー プリント フィルムで35mmのリリースプリントをつくるよう提案した。その提案は受け入れられた。

「私がドキュメンタリー出身だからか、あるいは私の世界観のせいかもしれない。このプリントフィルムが作り出す豊かな黒のトーンとカラー、それにリアルなルックとフィールを描き出すシャドウとハイライトのディテールが気に入っている」

最後にヴァレスはこう言った。「映画は文学と同じだ。私たちは人生の一瞬一瞬をとらえて、将来のために記述しているんだ。映画の撮影をするたびに新しいことを学んでいるよ」

この話はとてもハッピーな結末で終わる。サンダンス映画祭でのワールドプレミアで長いスタンディングオベーションを受け(デイリー・バラエティ紙は「熱狂的な拍手」と評している)、絶賛された。『同じ月の下で:La Misma Luna』の世界的な配給の権利はフォックス・サーチライト・ピクチャーズとウェインスタイン社が獲得し、2008年初頭に英語字幕版が公開される。

 

注1:『シネマ・ヴェリテ・スタイル』軽量なカメラを使って自然光で被写体が動き回り話す様子を撮影するドキュメンタリーの撮り方。

 

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