flag   日本 [change]
In Camera — January 2005
 Feature Films
Peter Sellers
『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方』の1シーンを撮影するスティーヴン・ホプキンス(左)とピーター・レヴィ撮影監督。 PHOTO BY: JAAP BUITENDIJK ©HBO
 

この俳優の名は、『ピンクパンサー』(The Pink Panther)のクルーゾー警部、『チャンス』(Being There)のチャンス、『博士の異常な愛情』(Dr. Strangelove)のマーキン・マフリー大統領など、心温まる配役を思い出させてくれる。

「ピーター・セラーズのことは、オーストラリアで育ったころに意識するようになった」と、ピーター・レヴィ撮影監督(ASC、ACS)は語っている。「家族でラジオのまわりに集まって、BBCの『グーン・ショー』で彼の声を聞くのが土曜の朝の儀式だったんだ。父は大笑いしていたよ」

Peter Sellers
シーンについて話し合う役者のジェフリー・ラッシュ(左)とスティーヴン・ホプキンス監督。 PHOTO: ©HBO
 

レヴィはスティーヴン・ホプキンス監督の『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方』(The Life and Death of Peter Sellers)を撮影した。二人はこの20年間、よく組んで仕事をしている。セラーズ役を演じているのはジェフリー・ラッシュ。作品はアメリカのHBOで12月に先行放映され、その後、イギリスなど各国で上映されている。画面構成はアスペクト比1.85:1のアメリカン・ビスタ。HBOは16:9フォーマットで、レヴィの作り出した構図をあまり変えずに放映している。

「スティーヴン(・ホプキンス)と私は調査のとっかかりに、シェパートン・スタジオをはじめ、ロンドンにあるピーター・セラーズの生活と仕事の場を訪ねてまわった。さらに彼の映画を見て、セラーズの人となりや彼の生きた時代と場所の雰囲気をつかんだ」とレヴィは言う。

前半のシーンでは、セラーズは25歳でかなり太っている。39歳のときに初めて心臓発作に襲われ、年をとるにしたがって若返りの整形手術をしたり、日焼けサロンに通ったりしている。54歳で死んだときはひどくやせこけて年齢よりずっと年とって見えた。

Peter Sellers
役者のシャーリーズ・セロンとジェフリー・ラッシュ。『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方』の1シーンより。
特殊メイク

「メイク部は特殊メイクの技術を使って、前半のシーンのジェフリーの顔の形を変えたんだ。特殊メイクは本物の皮膚に比べて、特有の光を反射するという問題があることはわかっていた。セラーズの顔は滑らかな白いキャンバスだけど、ジェフリーの肌はもっと凹凸がある。だから輪郭や顔のラインが強調されないように、ジェフリーの顔にはクロスライトを使わないことにして、ルックを柔らかくするためにキャメラのレンズにプロミスト・フィルターをつけた」

レヴィにはルックが変わるたびにテスト撮影をする時間はなかったが、HBOは事前に、彼がデジタル・インターメディエイト(DI)システムを使うことに同意していた。

レヴィはこう語っている。「DIをすることがわかっていれば、やり方を変えることができる。たとえば、雄大な空を撮影するのにキャメラレンズのグラデーション・フィルターは必要ない。あとでパワーウィンドウを使って空を切り離し、カット間をきちんとつながるように見せることができる」

Peter Sellers
役者のスタンリー・トゥッチ。ピーター・レヴィ撮影監督(ASC、ACS)撮影の『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方』の1シーンより。 shot by Cinematographer Peter Levy ASC, ACS.

撮影期間は57日だったが、ほとんどのシーンに登場するジェフリー・ラッシュの特殊メイクに7時間もかかる日が何日もあった。

「ジェフリーが特殊メイクをしたときは、そのロケーションで必要なシーンはすべて撮った。別の日にメイクをやり直すより、ずっと効率的だったからね」

レヴィは意欲的なスケジュールをこなすために、パナフレックス・プラチナとXLの2台で各シーンをカバーし、おもにプリモのプライムレンズを使った。プライムレンズではシャープすぎたり、あるいは長さが十分でないと感じるクローズアップのシーンは、プリモ11:1ズームレンズで撮影した。

Peter Sellers
シーンについて話し合う役者のジェフリー・ラッシュ(左)とスティーヴン・ホプキンス監督。
 

「撮影監督なら誰でも2台のキャメラで撮影するのは好きじゃないと思うよ。いいアングルも、そのアングルへの正しい照明の当て方も1つだけだからね。でも編集者にとってはカットをうまく合わせるための素材が多ければ、編集によって感情に訴える部分を強調できるので、それはそれで価値のあることだと思う」

レヴィはコダック VISION2 500T 5218とコダック VISION 250D 5246を用意した。「昼間の屋外のシーンにはある程度の輝度がほしかったから、3分の2絞りオーバー露光にすることが多かった。屋内と夜間のカットでは、内容によって少なくとも1絞りアンダー露光にしたんだ。5218はダイナミック・レンジがすばらしく広いからね」

ホームムービー

レヴィはセラーズの白黒映画のシーンもいくつか再現した。

「白黒フィルムは(イーストマン)5222プラス-X を使った。コントラストが豊かで、ハイライトに美しい輝きが出るからね。カラーフィルムの彩度をポストプロダクションで落としても、ああはいかない。ピーターのホームムービーの再現にも同じフィルムを使ったんだ」

レヴィによるとセラーズはホームムービー・マニアで、いつも16ミリで撮影していたという。レヴィは白黒フィルムを使ったときは、シャッター開角度を45度にし、毎秒24コマではなく22コマにして撮影することで、輪郭の濃い断続的な映像にした。

「ホームムービーのショットでは、スティーヴン(・ホプキンス)にキャメラを渡したこともあった。撮影監督やオペレーターに素朴なフレーミングやオペレートはできないと思ったからなんだ。撮影しているスティーヴンの後ろにこっそり忍び寄って、わざとピントをぼかしたり、ドンとぶつかったりした。そのおかげで、セラーズが撮影した本物のホームムービーみたいに見える」

レヴィは、ストーリーに出てくる映画のセットで使われたキャメラと照明機材のリストを作った。リー・ライティング社が提供した昔の明かりは、もともとシェパートンのステージで撮影されたシーンの中で小道具として使われていたものだった。昔の映画のシーンを再現するときは、古いブルート・アークライトのハウジングの内側に1.2KのHMIを入れて、観客には古いアークライトが光っているように見えるようにした。さらに小道具として、ごつくて大きなアリフレックスやパナビジョンPSR、そして初期のパナフレックスも使った。

「撮影用の2台のキャメラはたいていステディ・カム装置に取り付けるか、緊迫した感じを出すためにハンドヘルドにした。Bキャメラをドリーに載せるときはレールを使わずに、床やカーペットの上をただ動かすだけにして、いかにもリハーサルしましたという雰囲気や完璧すぎる感じが出ないようにしたんだ。ありきたりでないカットもいくつかある。セラーズがブレイク・エドワーズと一緒に撮影している最後のシーンもその1つだね。

セラーズが激しい勢いでサウンドステージから廊下に出る。キャメラはセラーズと反対方向に動いて、それから急に向きを変えて彼を探そうとする。現代の映画ならふつうはオペレーティングが悪いということでやり直す。でも私は、そのシーンが新鮮に見えるすばらしいカットだと思ったんだ。初めて見る映像という感じでね」

絵コンテはなかった。毎日撮影を始めるとき、レヴィはホプキンスと助監督の二人と打合せをして、何をするべきか話し合った。それからリハーサルを見て、各シーンの感情に訴える部分を監督がどう考えているか、その感覚をつかんだ。

「いったん詩情がわかったら、それをフィルムにどうとらえるかを考え出すのは比較的簡単なんだ。ルックもスタイルも、何か1つのテクニックや道具で決まるわけではない。無数のテクニックと選択肢がある。私たちがスタイルの指針にしたものの1つが、1950年代、60年代のイギリスの暗さだった。今ほど明るい感じがなかったから、窓から明かりを入れなかったんだ。寒色の光を少しだけにした。時代が進むにつれてセットの窓を大きくして、もっとたくさん暖かい光を入れていった」

レヴィによると、年の違うさまざまなキャラクターを演じる30から40通りのセラーズが登場するという。

「役者たちに、キャメラの向こう側に味方がいると思ってもらうのが重要なんだ」とレヴィは言う。「自分たちが演じるためのステージがあって、即興で演技ができると役者が感じるような照明にしたいと思っている。ジェフリーはパントマイムの経験があるから、自然に演技できた。とてもおかしくて、すごくいいセリフをアドリブで言っているんだ。偶然にすごくいいものが出来上がる余地を残しておくことも、映画製作にとっては重要だね」

ビジュアル・エフェクト

ビジュアル・エフェクトショットもいくつかある。セラーズが通りから新車のショールームに入っていくシーンもその1つで、これはバーチャルセットなのだ。レヴィはシェパートンのステージにセットされたブルースクリーンの前で、セラーズと車のセールスマンと数人のきれいな女の子を撮影した。その映像をCGの背景と合成したわけだ。別のカットでは、セラーズが鏡の前を通り過ぎるのだが自分の姿が見えない。戻ってまた見るが、まだ何もない。鏡は実はブルースクリーンで、レヴィが部屋の反対側を写し、それをあとで鏡の中にデジタル合成した。

セラーズがスタンレー・キューブリックのロールスロイスの後部座席に座っているシーンもビジュアル・エフェクトが使われている。二人は『博士の異常な愛情』の中の登場人物について話し合いながら、ロンドン中をドライブしている。車が動いているように見えるのに、セラーズが立ち上がって車を降りる。その瞬間、見ている人は彼がリアプロジェクションのスクリーンに囲まれていることに気づく。実はステージ上の車の中で会話をしていたのだ。

レヴィはEFILMのDIシステムでタイミングを行い、作品に最後の仕上げを施した。

「(カラリストの)スティーヴ・スコットとはすばらしい信頼関係を築けた」とレヴィは言う。「パワーウィンドウを使って前半のシーンの映像を少しコントラストが下がるように調整した。それから、画面の隅を少し暗くしてぼかし効果を出すことで、ピーター・セラーズの初期の映画で使われている、昔のレンズの感じを真似た」

「この技術のおかげで、照明や調子を細かく調整したり、色再現を一定に保つことができる。役者の後ろの壁や小道具が明るすぎたり、何か問題があったりしたら、スティーヴに頼んでその色調を落として、前景の役者に注意を引きつけるようにしてもらった。リアルタイムに調整できるから、自分の目で見て満足できるまでやり続ければいい。昔のコメディのシーンは明るく照らされているんだけど、彼の人生が暗くなるにつれ、もっとドラマチックな照明効果がでるようにした。演技をしているときに比べて、彼の私生活はさえない感じだった。そういうことをいろいろとDIの仕上げで表現した。でも、みんなが理解しておかなくてはならないのは、DIはルックを作るものじゃないってこと。仕上げをするためのものだ」


| | 著作権