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撮影 : © ANGELOS VISKADOURAKIS |
記録更新が続出した昨年夏の第28回オリンピック大会では、1896年以降初めて競技が近代オリンピック誕生の地、アテネに戻った。衆目を集めるこのイベントに 202カ国から11,099人のアスリートが集まり、華やかな開会式にはオリンピック競技場に集まった 72,000人 だけでなく、世界中の 40億の人々が注目した。
テキサスを本拠地とするギリシャ生まれの監督アシーナ・ツァンガリは、オリンピックの開会式と閉会式のコンセプト作りを手がけた芸術監督、ディミトリス・パパイオアヌから、ショーのマルチメディア・コンテンツ(フィルム、ビデオ、アニメーション、レーザー)のプロデューサー兼監督にならないかと声をかけられた。この仕事を引き受けることは、式典の視覚的・物語的な内容を練り上げる制作チームに加わることになる。「アシーナは 20人近くの撮影監督と面接して、2カ月後に私と仕事がしたいと電話をくれた」とギリシャ人撮影監督のアンジェロス・ヴィスカドゥーラキスは言う。ツァンガリは彼の芸術的センス、大胆な技術的実験、そしてギリシャの光の中で仕事をした豊富な経験を買って、彼を選んだのだという。
「アシーナのような監督と組めるのは、私にとってこの上ない経験だった。彼女は伝統にとらわれない映画製作をしてきた純粋なアーティストなんだ。彼女はコマーシャルとは違うスタイルで仕事をしたいと考えていて、私たちは本編映画をやるときよりもさらに深く技法を研究した。彼女からはシンプルなアプローチを考えるよう求められた。被写体の外見的な形ではなく、魂を撮影するように言われたんだ。彼女は技術面について質問してくるし、技術的な完璧さを求めるけれど、同時に、ドラマの中で映像自体が持つ力と真実を探求する。そんな監督と仕事をするのは撮影監督の夢だよ」とヴィスカドゥーラキスは感嘆し、2004年アテネオリンピック組織委員会のような複雑な組織や、式典のプロデュースを委託された制作会社のジャック・モートン・パブリック・イベントと一緒に仕事ができたのもよかったと付け加えている。
開会式の映像のうち、オリジナルをフィルムで撮影した部分が 2カ所あった。競技場に設置された 16:9 の LEDスクリーンに 2人の若い男性ランナーが象徴的なリレーを行う姿を映し出す 40秒の 『カウントダウン』 。紀元前2000年代のキクラデス諸島の巨大な偶像が印象的に“爆発”した結果現れる、空中高く吊るされた高さ9メートルの岩のような8つの面に同時に映し出される、8種類の映像からなる壮大な 『アレゴリー』。
徹底的にテストを重ねたすえ、 『カウントダウン』 と 『アレゴリー』の 2週間にわたる撮影は 2004年3月 に始まり、その後 2カ月で膨大なテレシネと編集の作業が行われた。
ヴィスカドゥーラキスは 『カウントダウン』 のルックを、比較的古めかしい有機的で動的なものにしたかった。
ギリシャでいちばん古いレンズを探して、アリ 16-SRIII 用の汚れて色がついたクックS1 と S2 の望遠レンズと、クックS3 レンズを何とか手に入れた。 古い空港の使われていない滑走路を使って、アテネの澄んだ青い空をバックに2人のアスリートをコダック VISION2 100T 7212で撮影したヴィスカドゥーラキスは、明かりは太陽だけにして、平らな塀に当たる早朝の柔らかい光線を利用し、コントラストと影で遊んだ。
「アスリートに焦点を合わせ、漠然と広がるコンクリートをぼかして、彼らの人間的な努力を強調した。走っている彼らの影と足と関節を追って、まるで完璧に調整された機械のような脚の動きをとらえたんだ。影はシャープで、アスリートたちの身体はとてもしなやかで、明るい光と澄んだ空と平らなむき出しの面が、非常に高コントラストの環境と形式主義的な荘厳さを創り出してる。7212 は万能だったよ。高解像度のコダックのフィルムで撮るときは、減らせるものから始める。それは撮影監督にとってとても大切な要素なんだ」
『アレゴリー』 のシーケンスのためにヴィスカドゥーラキスは、さまざまな民族の人たちの親密で官能的な人物像を 100種類近く撮影しなくてはならなかった。1つになった人類を表現し、賛美するというツァンガリの意図を損ねるような、衣服も民族的な要素もない。ヴィスカドゥーラキスはアリにウルトラ プライム レンズを付け、「お気に入りの 16mm コダック VISION 200T 7274を」使った。1つのチャイナボールの中に 500W の電球を2つ付け、その照明が太陽の動きをまねて役者の周囲を正確に 200度回るようにする装置(ハンドルで手動操作する)を造り、補助光は使わなかった。「7274 は 感度100 のような感じがするけれど、はるかにラチチュードが広くて、3分の2絞り増感したにもかかわらず、暗いシャドーから中間のトーン、そしてハイライトへととても自然に移っていった。このフィルムの品質は 35mm にも匹敵するね。粒子はないし、とくに肌の色合いの細かいディテールと自然なコントラストを出してくれたので、シンプルなアプローチと人間の魂と脳に刻み付けるアプローチのバランスがうまくとれた」
照明のスタイルはすべて、それぞれの撮影の前に徹底的にテストされたのだが、水中の照明だけはテストする時間がなかったので、ヴィスカドゥーラキスとクルーは 35mm のコダック VISION2 500T 5218とアリ IICを携えて、壁に黒い布を張りめぐらしたアテネのスイミングプールに乗り込んだ。2台の旧式のツァイスレンズを用意し、照明機材としては4kWのシネパー水中ライトを2台、5kWのHMI モービームを 1台、そしてシンプルなキーライトを6台そろえた。「3、4時間実験したあと、バックライトや美学的に陳腐な手法はすべて排除した。印象主義的な照明やわざとらしいものを入れずに、視覚的にインパクトがありながら野外バレーのように軽やかな映像にする必要があった。面白いことに、ほとんどすべての撮影に、水中キャメラマンが持ってきた100Wの水中ライト 6台を使ったんだが、これがとてもうまく行ったんだ。5218 はシャープで、水の中で見えにくいところも補ってくれたよ。ポジプリントのような感じで、私がほとんど何も言わなくてもテレシネではすばらしい結果が出た」
ヴィスカドゥーラキスはコントラストの強い水中の演出のために、モービームを飛び込み台に据えた。「水中で光線の感じを保つには、露出オーバーにしなくてはならないことがわかっていたので、ハイライトが f22 であることを確認して、念のために f8 で撮影したがうまく行かなかった。そこで f4 でやってみたら、それでもハイライトとダンサーの身体のディテールが出ていて、なおかつ水の分子から発するとてもいい感じのキーライトが周囲を包んでいた。キーライトを 6絞りも露出オーバーにするなんて普通はしないことだけど、結果は完璧だった」
オリンピックという強烈な仕事をツァンガリと一緒にやった経験は、決して忘れないだろうとヴィスカドゥーラキスは言う。「アシーナは信じられないくらいスタミナがある。丸1年間、1日18時間 休日なしで仕事をして、何時間もの会議はもちろん、膨大な量の技術的な問題にも対応しなくてはならなかった。彼女の芸術的なアプローチのおかげで、このプロジェクトはとても独創的なものになったし、彼女のおかげでシンプルであることの強みを再発見させられたよ」 |