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デジタルシネマを語る

ピーター・ドブソン氏
マン シアターズ
CEO(最高経営責任者)



  ピーター・ドブソン
ピーター・ドブソン氏

英国の独立系シネマチェーンのオーナーとしてキャリアをスタートしたピーター・ドブソン氏は、ワーナー・ブラザース・インターナショナル・シアターズで英国・ヨーロッパ地域の番組編成担当から同社の英国およびドイツ法人のCEOへ、さらにワールドワイドの番組編成のスーパーバイザーへと昇格を遂げました。5年前、ドブソン氏は113のスクリーンを有するロサンゼルスのシネマチェーン、マン シアターズのCEOに就任し、現在はCEOとしての職務に加え、全劇場の番組編成とスケジューリングも手がけています。
 

駆け出しの頃

英国ではおよそ18年間にわたり、19サイト 30スクリーンの映画館を所有していました。劇場の名前は“ACE”といいました。当初は看板代もままならず、最初に買った古い劇場の名前が“ABC”だったので、「文字をちょっと入れ替えて、“E”だけ買い足して……これでいこう」と考えたのです。「“ACE”とはどういう意味ですか?」と人に聞かれた時は「Alternative Cinema Entertainmentの略です」と答えていました。名前に関する裏話です。現在マン シアターズでは、劇場運営に加え、番組編成も担当させてもらっています。私の情熱の元である“映画”に携われる仕事です。
 

英国と米国のシネコンの違い

英国では、一つのシネコン内に450席の劇場が2つ、350席の劇場が1つ、その他が250席の劇場といった具合で、180席規模の劇場が加わるのは場合によって、という感じです。一方、米国では、大きな劇場が2~3スクリーンあって、250席の劇場が1つか2つ、その他の劇場はすべて非常に小さな作りになっているのが普通です。小さな劇場を作るほうが費用効率に優れているのかもしれませんが、ほとんどの人はそういう狭い劇場で映画を見たいとは思わないでしょう。私の場合、映画館に行くことは「特別な状況」を楽しむという感覚で、この「特別な状況」とは大きなスクリーンを意味するのです。とは言え、狭い劇場でもスクリーンが壁の端から端まで届くような大きさなら、それは大画面と言えないこともないですが……。
 

試写のとき考えること

普段、私は公開初日の10日くらい前まで映画を見ないのですが、自分がブッキングする作品はすべて見るようにしています。ですから結果として相当数の映画を見ることになります。試写の時は、劇場での上映期間と、どのサイトで上映するかを見極めるよう努めています。どのシネコンでも、各スクリーンの動員を最大限にするようなブッキングが必要で、そのためにはそれぞれの作品を何週間上映するかを決定しなければなりません。さもないと、“オーバーブッキング”となり、新作の公開を私たちに委ねている配給会社との間に問題が起こります。ですので、映画を見て、経験に基づいてそういった判断を下すのが私の仕事なのです。いつも読みが当たるとは限りませんが、幸いなことに、概ね予想通りにいっています。
 

劇場ごとに異なる映画

たとえば、当社のある地域のサイトでは、あるホラー映画が他の地域に比べて3倍の興行収入を稼ぎ出すことがあります。同じ日、同じ映画、同じ座席数であるにもかかわらずです。つまり地域ごとの観客層が動員に影響をしているということです。一方、映画業界にとって非常に重要な地域であるハリウッドで多くの劇場を展開している場合は、できる限りすべての映画を上映しなければなりません。ただし、ハリウッドのどのサイトで上映するかは、場所よりも映画の系統、すなわちジャンルやストーリーなどの要素に“スターの魅力”を加味した上での決定となります。新作で興収を上げるには、多額の宣伝費と人気のあるタレントの起用が必要ですが、昨今は単にスターを起用するだけでは興収の保証にはならないようになっていることも事実です。
 

シネコンのブッキングについて

18~20スクリーンあるシネコンのブッキングで、配給会社を満足させ続けるのは、6スクリーンのシネコンをブッキングするよりも、間違いなく難しいことです。配給側も超大型シネコンの場合、あらゆる映画が上映可能だと分かっていますから、できるだけ多くのスクリーンで上映するよう求めてきます。しかし、6スクリーンのシネコンではそれは無理ですし、私たちがどの配給会社にも公平にブッキングしているのを理解してもらえます。いずれにせよ、公開中の映画すべてを上映することは不可能ですが、大作は全て上映するように努めています。お客様はその週に最も大々的に宣伝されている映画が近くの劇場で観られることを楽しみにしているからです。それに、配給側も何億ドルもの宣伝費をかけた映画は、宣伝費とプリント費を回収するため多くの場で公開されることを期待していますからね。
 

劇場の運営法について

劇場はAPSH(スタッフ1人が1時間に対処する観客数)を基準に運営しており、毎週、毎日、毎時間分析を行っています。何人の観客がチケットを購入し、安全上の観点から、その人数に対処するには少なくともスタッフが何人必要かを把握するためです。全体の流れはこうです。当社の運営部スタッフは会議の席で、公開予定の映画をチェックし、番組編成担当から予想される観客層について情報を仕入れます。それに基づき、予想される観客数を見積もります。そして各劇場の支配人は、お客様が確実にサービスを受けられるよう、毎日時間帯によって異なる必要なスタッフ数を正確に見積もって配置します。まるで科学のようです。
 

コンセッションについて

コンセッションスタンドにおいては、「客単価」、つまり入場者1人あたり平均いくら使うかが、劇場の業績を測る1つの指標になります。次が、「ヒット率」と呼ばれる、入場者数に対するコンセッションでの購買者数です。ヒット率は英国では50%前後、米国では30~35%程度です。この違いの理由ははっきり分かりませんが、英国では、劇場が従来からの商業地にあることが多く、前もって食事を済ませないで劇場に来る傾向があります。ロサンゼルスでは、食事をする場所がたくさんあるショッピングモール内に劇場があるのです。
 

デジタル体験について

私たちは積極的にデジタル化に取り組んできましたが、機能面については、期待が外れたことはほとんどありません。まず、早くからベータテストとして多くの劇場でバルコとクリスティの1Kプロジェクターを導入しました。現在では2Kプロジェクターを使っていますが、初期の問題点もすべて解決され、非常にうまくいっています。現在、チャイニーズ シアター(ハリウッドの中心に位置する)の75フィート幅のスクリーンでNECのプロジェクターを採用しているのですが、プロジェクターの光効率がとても優れているので、実は光量を少し下げなければなりませんでした。
 

観客の視点

目の肥えたお客様は自分が観ているものがデジタルかフィルムかということにこだわりを持っていると思いますが、デジタルに変えたからといって動員数が増えるとは思いません。お客様はできる限り良い映像を望まれているだけです。確かに、デジタルでリリースされている作品もあり、デジタルシネマだと素晴らしくきれいに見えます。しかし、チャイニーズ シアターのような優れた劇場では、私は時々階上の映写室の横にある特別席に座りますが、そこから75フィートのスクリーンを見ても、デジタルなのか35ミリフィルムなのか分からないことがあります。どちらも素晴らしいクオリティだからです。フィルムだと分かるのは、プロジェクターのカシャカシャという音を聞いた時か、リール替わりのパンチマークを見た時だけです。
 

デジタル化による運営面の違い

現在、サイトによってはチケット発券システムを変更すると、ロビーの表示システムや上映開始時間も自動的に変わるようになっています。この技術をより幅広く適用できるようになれば、すべてのサイト、スクリーンの、予告編、シネアド、お知らせなど本編の前に上映するあらゆるコンテンツを番組編成部門でプログラムすることが可能になります。いったん、それをやってしまえば、作品が別のスクリーンに移動するまで手間が要らなくなるでしょう。番組編成部門が作品の移動やコンテンツのプログラミングを継続して管理することに異論はないはずです。こういった段階までくれば、費用的なメリットや効率性も生まれるでしょう。
 

その他の潜在的なデジタルの利点

デジタルの場合、映画をより長い期間上映できると思います。現在のフィルム上映では映写技師を酷使しない限り、1日に1つのスクリーンで2つ以上の映画を上映することはありません。でもデジタルなら、上映中の11週間目の朝に人気のあるファミリー映画を上映し、昼は別の映画、夜はまた別の映画を上映するといったことが可能になるのです。しかも、映写技師は重いプリントをプラッターから降ろす必要もなく、それ以上に、プリントを真ん中から落として上映ができなくなるということもありません。
 

同じ映画の複数スクリーン上映について

デジタルなら、簡単に同じ映画を2つのスクリーンで上映することができます。今でもインターロックで2つのスクリーンに上映することはできますが、もしフィルムが止まったら上映を2回分失ってしまうので、私は気が進みません。デジタルなら確実に動員を増やすことができます。ただ強調しておきますが、それをやるには配給会社の同意を得る必要があります。1本の映画を2つのスクリーンで上映するということは、他の映画をどれか外すということなのですから。毎週月曜日、配給会社と各スクリーンで公開する映画について契約を交わすのですが、配給会社はその契約に懸けているのです。
 

デジタルの課題

課題は配信です。ハードドライブの配送は必要以上にコストがかかっています。技術的にダウンロードの速度が充分早くなったら、衛星配信を試してみたいと思っています。それに、本編やその他のコンテンツを、初日前夜ではなく、もっと早く受け取れるような配信システムが必要です。しかし、セキュリティーキーに関しては、すべて順調にいっています。何かあった場合は、電話を一本かけるだけで新しいキーが入手できています。
 

映画本編以外のコンテンツについて

当社の劇場は、ハリウッドという大手映画会社のいわば裏庭のようなところにありますので、本編以外のコンテンツの上映はかなり困難です。私としては実験的にやってみたいと思っていますが、今のところ興行会社にとって、コスト的に魅力があるとは思えません。唯一私たちにできるとすれば、短期間の“自主上映”(コンテンツのオーナーが一晩あるいは一定期間劇場を“買い取る”こと)です。収益をふいにするつもりはないのですが、本編を劇場へ足を運ぶための“副産物”にはしたくないのです。本編が常に映画体験の一番の目的であり、また上映期間中ずっと商品として店頭に並んでいてほしいと思っています。
 

劇場の将来

映画はいつまでも、楽しい『お出かけ先』であり続けると思います。近年は“ホームシアター”によって、より多くの人が映画の魅力を楽しみ、大画面体験のクオリティを知っています。劇場が提供するのは、“大観衆体験”がプラスされた“大画面体験”です。私たちは、ホラー映画では大勢の人と共に絶叫し、コメディ映画では大勢の人と共に笑います。こうした体験は、とりわけ若い人にとって重要です。友達同士でそうした体験を共有できるわけですから……。そして、より良い顧客サービスを提供できるよう、劇場を清潔で快適に保つのは劇場のマネージャー陣の仕事です。また確実に人を引き付ける作品を作るのは、映画製作会社の仕事です。チケット代を考えると、製作費が1億ドル以上かかる映画1本を2~3時間のエンターテインメントとして楽しむためのコストが10~11ドルなら、コンサートや野球、あるいはバーに一杯飲みに行くのと比較しても、いつだって十分お得だと思いますよ!

 

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